横浜の川を歩く19 宇田川

 

宇田川(うだがわ)は、境川水系の二級河川です。市長管理区間が3,520m、普通河川も含めると6,000mを超え、中流から上流にかけて支流が木の枝のように広がっています。

泉区役所のウェブページでは、およそ五筋ある水源のうち御霊(ごりょう)神社の弁天池を象徴的源流としています。たしかに、この川の源流を一か所に決めるのは難しい。国土地理院の陰影起伏図で確認すると、丘陵の間を流れる幾筋もの支流が、地下鉄立場駅、汲沢中学校、宇田川遊水地及びその下流あたりで何度も合流している様子が見て取れます。

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御霊神社の弁天池。池の水は参道の下を抜け、立場方面に流れていきます。

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明治12年2月にこの地を調査した明治政府は「皇国地誌」に、宇田川について源流の中田村から深谷村までを村岡川と記載しています。弁天池に建てられている石碑にも「村岡川源流」と彫られていますが、現在は川全体が宇田川と決められています。

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弁天池がある御霊神社は天正年間(1573-1592)に創建された中田村の鎮守で、明治6年に村社となった由緒ある神社です。境内には中和田小学校の奉安殿(天皇・皇后の写真と教育勅語を納めた建物)をはじめ、古式消防器具保存庫、道しるべが彫られた庚申塔など、興味深い建造物があります。

上の写真は泉区で最も古い庚申塔で、寛文6(1666)年に建てられました。塔身の四面には、南無阿弥陀仏の名号が刻まれ、正面には耳を、向かって左側面には口を、右側面には目をふさいだ猿がそれぞれ浮き彫りにされています。

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宇田川は、市営地下鉄踊場駅から立場駅までの長後街道と並行する区間(距離約2km)を、幾筋もの支流となって縦断していきます。写真の場所は中田中学校入口交差点で、このあたりは暗渠になっています。

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立場駅裏の大規模店舗「イトーヨーカドー」の横を流れる支流。ここも暗渠になっています。水源は弁天池ではなく、中田北西部の芝原あたりです。

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弁天池と中田北西部、それぞれの流れが合流しています。右が弁天池からの流れです。

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弁天池の源流から約3km下流の汲沢中学校付近。ここには水位観測地点があり、5分間隔で観測した情報が横浜市の河川水位情報サイトで公開されています。

中学校名の「汲沢」は、「ぐみさわ」。知らないと読めない名前です。そのうえ住所の地名は「ぐみざわ」と濁るから、ますますややこしいですね。難解字つながりで、読めない名前をもうひとつ。港南区に「下車ヶ谷」というバス停がありますが、「かしゃげと」と読みます。変わった地名が多い横浜でも、これがナンバーワンでしょう。

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宇田川の中流域にはたくさんの小魚が群れていました。今まで見てきた横浜の川ではダントツに多いと感じます。

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宇田川に生息する生き物を紹介したパネルによれば、この魚はアブラハヤらしい。

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川が弓なりに曲がっています。カーブに沿って左手には直径約1kmの円形をした米軍基地「深谷通信所」がありました。2014年に返還されましたが、一部がグランドとして利用されている他は原っぱのまま残っています。今後は「緑でつながる魅力的な円形空間」として、スポーツ施設や公園として整備するそうです。

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平成22年度に完成した宇田川遊水地です。面積は150m×50mほどですが、地下に2階構造の貯留池が整備されているので、見かけ以上の規模があります。貯留量は65,000m3で、横浜市が管理する遊水地では3番目の規模を誇っています。

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増水したとき、地下へ水を貯留するための取水口です。向こう側の公園も、地下が貯留池になっています。

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宇田川は、まさかりが淵市民の森公園に沿って流れていきます。ここには公園名の由来となった「まさかりが淵」があります。境川との合流地点から2km上流の場所です。幅約8m、高さが約3.5mある人工の滝ですが、かつては本物の滝があったようで、滝の名前にまつわる昔話が、案内板に書かれていました。要約すると、

むかしむかし、この滝の裏に大蛇が住んでいた。ある日、村の男が木を切っているときに手をすべらせ、まさかりを滝に落としてしまった。滝つぼを覗いたら、きれいな姫様が機織りしているのが見える。そこで男は声をかけ、まさかりを拾ってもらった。姫様は「私はここの主です。私のことを人に話すと、あなたの命はなくなります」といって渡してくれた。村に帰った男は、姫との約束を破ってこのことを母親に話したため、たちどころに死んでしまった。それからこの滝をまさかりが淵と呼ぶようになった。

という話です。お姫様は、大蛇が化身した姿だったのでしょうね。

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まさかりが淵のあたりには、野趣あふれる風景が残っています。

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境川との合流地点。右奥から流れてくるのが宇田川です。和風屋根の高層建築は、2002年に閉園した横浜ドリームランドに併設されていた「ホテルエンパイア」で、現在は横浜薬科大学の図書館棟として使われています。

和泉川・阿久和川・宇田川と、泉区の川を巡ってきましたが、泉区という名前のとおり、支流がたくさんあって水の豊富な区であるとあらためて実感しました。

(2021年11月記)