横浜の川を歩く22 柏尾川

柏尾川(かしおがわ)は、境川水系の二級河川。全長は12kmほどで、横浜市域が7.03km、藤沢土木管理が5.2kmです。阿久和川と平戸永谷川が合流したところから柏尾川と名を変え、横浜市戸塚区・栄区鎌倉市藤沢市を流れて境川に合流します。

右から流れるのが阿久和川で、左は平戸永谷川です。この合流地点からは、柏尾川と名称が変わります。

正面に見えるトラス橋は、国道1号戸塚跨線橋。大磯町に居住していた吉田茂首相が、東京へ往復するとき戸塚駅踏切が渋滞することに業を煮やして、昭和28年(1953)に建設を決めたバイパス道路です。ワンマン宰相とあだ名された吉田茂の名を取って、ワンマン道路とも呼ばれています。

箱根駅伝の2区で、権太坂とともに難所として知られる不動坂の登りがここから始まります。

江戸時代は大山信仰が盛んで、主要な参詣道路が12ありました。そのうちのひとつが「柏尾通・戸田通大山道」です。横浜市戸塚区柏尾で東海道から分かれ、岡津・長後・用田を経て相模川の戸田で渡船して大山に向かうルートでした(川島敏郎「大山詣り」)。大山道は不動坂信号手前で東海道(国道1号)から分岐しますが、ここに不動尊(道標)が建っています。それが、写真の「柏尾の大山道道標」です。

祠に祀られている道標は、石造りの不動明王像で、正徳3年(1713)の建立。「従是大山道」の道標は寛文10年(1670)のもので、他に2基の道標と灯籠、庚申塔があります(横浜市歴史博物館ウェブページ)。

東海道戸塚宿江戸方見付跡の碑です。

見付とは宿場の出入口のことで、ここで参勤交代の大名らを宿役人が出迎えました。そばに一里塚跡もあります。

歌川広重の「東海道五十三次 戸塚」(保永堂版)です。現在の同じ場所が下の写真。

ずいぶん味気ないというか・・・・・・。

柏尾川に架かるのが吉田大橋(正式名称は「大橋」)で、大名行列の毛槍を模した道路照明灯が、当時を偲ばせます。

吉田大橋から上流の川岸には桜が植えられ、花見の名所として知られています。橋の下から、満開の様子がチラリと見えています。

川は、戸塚駅ホームの下を流れていきます。

戸塚ポンプ場の排出口です。戸塚地区センター/図書館の地下にあり、雨水を31.9m3/秒の排水能力で柏尾川に放流します

戸塚ポンプ場は、豪雨時に浸水の危険性がある戸塚・吉田・矢部・柏尾町の雨水を柏尾川に排水して浸水を防ぐと共に、汚水を栄第二水再生センターに送水する中継ポンプ場です。(横浜市ウェブページ等)。

戸塚駅周辺の急速な宅地化により、柏尾川が氾濫する災害が起きています。昭和51年(1976)の集中豪雨による氾濫では矢部団地が浸水し、ボートで救出活動が行われました(ウィキペディア)。昭和54年秋から稼働したこのポンプ場の活躍もあり、その後は管轄区域での河川氾濫は起きていません。

富塚八幡宮狛犬天保十二年の銘があり、作者は鶴見村の吉六。狛犬ファンの間では吉六狛犬の愛称で知られる名品です。この写真は吽像ですが、阿像の姿形の見事なこと。ぜひ現場で確認してください。

富塚八幡宮の裏山に古墳があり、これを富塚(トミツカ)と称し、やがて「トツカ」となったのが「戸塚」の地名の起りと伝えられています(神奈川県神社庁ウェブページ)。

谷戸のおおわらじ。

横浜市地域有形民俗文化財です。全長3.5m、重量は200kgで、家内安全、五穀豊穣の願いがこめられています。歴史は意外に新しく、大正時代から作られるようになりました。

栄第二水再生センターに送られた汚水を活性汚泥法により高級処理し、柏尾川に放流しています(横浜市ウェブページ)。

川の真ん中に高いコンクリート塀が築かれています。右は金井遊水地で、柏尾川の氾濫水を貯留します。通常はビオトープのように水鳥や水棲動物が憩い、住民の目を楽しませています。オオヨシキリカイツブリなどの珍しい鳥もいるそうです。私が取材したときは、ウシガエルが鳴いていました。この遊水地は神奈川県の所管らしいのですが詳細は不明。

金井公園の照明灯が見えています。ここには野球場、テニスコート、多目的運動広場があります。

支流のひとつ、大面川の合流口です。鎌倉市の関谷・城廻を源流とし、鎌倉市内では関谷川と呼ばれています。真上に高速横浜環状南線が建設中で、川の下流は完全に覆われてしまいました。

横浜環状南線は、国道1号の戸塚ICと横浜横須賀道路の釜利谷JCTをつなぐ、約8.9kmの一般国道で、2025年度開通予定です。大面川河口の栄IC・JCTが完成すると、2024年度に開通予定の横浜湘南道路(藤沢ICまでの7.5kmの自動車専用道路)にも接続します。

定泉寺です。このお寺には、「田谷(たや)の洞窟」と呼ばれる史跡があります。全長約570m(参拝路は300m)の洞窟内には諸仏だけでなく、獅子や龍など250余点のすばらしいレリーフが彫られており、横浜屈指の隠れた名所です。

洞窟は狭く入り組んでおり、かがまねばならない通路もありますから、車椅子などでは入れません。

大船観音寺白衣観音像(大船観音)です。東京へ向かう東海道線の車内からご覧になった方もいらっしゃるのでは。

昭和4年(1929)に着工されたものの、戦争による資材不足などのために中断し、完成したのは昭和35年(1960)。高さは25mですが、標高が50mほどの小山に鎮座しているので、大きく見えます。
深閑とした境内から純白の観音像を見上げると、おごそかでありながら慈愛に満ちたお姿に心が洗われる思いでした。

境内から、大船駅付近の柏尾川を望む。

大船駅から柏尾川に沿って辻堂方面に約1km進むと、総面積63,900平方メートルの大船フラワーセンターがあります。ここでは3,000品種ほどの植物を観賞することができます。神奈川県立ですが、指定管理者の「アメニス大船フラワーセンターグループ」(日比谷花壇)が運営しています。

支流の小袋谷川が流れ込んでいます。大船駅の下から合流する砂押川とともに、鎌倉市管理の準用河川です。横浜市の川ではないので、取材していません。

境川(左手)との合流地点で、住所は藤沢市川名1-1です。境川はここから約4kmを流れ下り、片瀬江ノ島駅の横を抜けて相模湾に到達します。

(2022年6月記)